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日本に民主主義が根付かないのは「敬語」のせい?

消えることなく維持されている「階層制度」

■民主主義が文化的に根付くには。

 『菊と刀』でも引用されているように、19世紀初頭のアメリカ社会を見聞したフランス人貴族トクヴィル(1805~1859)の『アメリカのデモクラシー』(1835,1840)では、アメリカ社会の際立った特徴として平等の価値観が広く共有され、行き渡っていることが挙げられている。

 戦後日本は、政治的、経済的、文化的にアメリカの大きな影響下に置かれてきたが、人と人との関係性の慣習が根本から異なる日本がアメリカ型の民主主義をそのまま移入することは難しいと言えるだろう。戦後70年以上経っても、一向に日本社会に民主主義的な文化が根付かないように感じられるのは、こういったことが理由の一つとして考えられる。

 では、日本に民主主義が全く馴染まないのかといえば、そんなことはないはずだ。日本の文化的な土壌、慣習に馴染む民主主義の在り方を考えていけば良いのではないだろうか。

 たとえば、目上の者に対して敬意を払うという礼節は、むしろ「生き方」としての民主主義的な倫理として有用なものと言えるだろう。他者に対して常に自分をへりくだった立場に置くという精神は、自己の正しさが絶対ではなく、他者の意見を尊重する態度へと繋がる。

 また、議論において丁寧で柔らかな言葉遣いを心がけることで、言葉の攻撃性が和らぎ、理性的な議論を行いやすくなる点も敬語の長所である。だから、敬語という言語的慣習そのものが民主主義と馴染まないわけではない。

 相手を尊重しつつ、議論の場においては互いが平等であるという意識を持つようにする習慣が根付けば、日本でも民主主義が文化的に根付いていく可能性はあるのではないだろうか。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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